ぶちおいしい!
潮の満ち引きで鍛えた「広島の牡蠣」

栄養満点の牡蠣の生産量日本一の県が、広島県。全国の6割を占める「牡蠣王国」

取材:2018年12月  放送:2019年1月

全国の6割を占める「牡蠣王国」広島

秋から冬、春にかけて、日本の食卓に上る牡蠣(かき)。滋養強壮に優れた牡蠣のエキスは、某大手菓子メーカーのキャラメルにも入っている。「一粒300m」という誰もが知る広告コピーは、そこに含まれるエネルギー量が「人間が300m走るのに必要な量」だからで、主な栄養素のグリコーゲンは、企業名にもなっている。

その栄養満点の牡蠣の生産量日本一の県が、広島県。全国の6割を占める「牡蠣王国」だ。

県西部の廿日市市の漁港から、瀬戸内の穏やかな海を進むこと約 30分。牡蠣の養殖いかだがあちこちに浮かんでいる。私たちが乗る漁船の甲板には巨大なクレーンがついている。
「何に使うのだろう…?」

そう思っていたら、漁師たちが手際よく、筏についていた海中のワイヤーをクレーンの先端に引っ掛けて、釣り上げていく。
どんどん高く伸びるアーム。まるで鉄骨を持ち上げるビルの工事現場のようだ。

ワイヤーには、ホタテの貝殻が約 20cmおきに繋げられていた。
それが高さ 10mまで釣り上げられる。
次の瞬間、漁師が巨大なハサミでワイヤー最下部の留め金を切った。

「バサバサバサ~ッ!!!!」

爆音とともに、大量の貝殻が一気に甲板に落ちる。
実に豪快だ。

ホタテの貝殻の中には、まるまると育った牡蠣が入っている。
瀬戸内の芳醇な海で、 2年間育った逸品だ。

案内してくれたのは、廿日市市で牡蠣の養殖会社「オオノ」を営む、寺西芳明社長( 59歳=取材当時) 。いつも笑っている。まさに「ひょうきん」な人だ。

「ぶちおいしい牡蠣を作っています~(笑)」


「ぶち」とは、「とても」という意味の広島弁。
そんなユーモラスな人柄とは裏腹に、美味しい牡蠣を作る努力は、決して惜しまない。
ユニークかつまっとうな養殖法を編み出しては、技術を磨いてきた。

自慢のオオノの「逸品牡蠣」

そもそも牡蠣の“種”(赤ちゃん)はプランクトンのようなもので、 7月~ 9月に誕生してから約 2週間海中を漂い、岩場に付着する。その性質を利用して、その海域にホタテの貝殻を入れておくと、赤ちゃんはそこに付着する。 1枚の貝殻に 100匹前後。それを、潮の満ち引きが大きい浅瀬に貝殻をぶら下げる棚(抑制棚)を作り、 1年間育てていく。

「ずっと海の中にいる牡蠣が、時々空気中に上がって干されると、牡蠣がびっくりして、
味が良くなる。うん!」


一時的に海から干されても大丈夫な「生命力の強い牡蠣」が生き残る。
それらを、プランクトンが豊富で潮の流れが良い海域に“引越し”させて、更に 1年間育てると、大きな牡蠣になる。
オオノの牡蠣は、瀬戸内海の自然を利用して 2年間育て上げた逸品なのだ。

「山の豊かさ」と「海の豊かさ」

そんな牡蠣を育てる工夫は、海の中だけではない。漁師たちは、海から遥かに望む中国山地の山々に植林をしている。これは宮城県気仙沼市の三陸沿岸部で牡蠣を養殖し、皇室にも献上している畠山重篤さんが中心になり、約 30年前から広がってきた活動だ。

 海に豊富な栄養をもたらすのは、山の樹木たち。
山の豊かさと「海の幸」はつながっている。

様々な工夫

工夫はまだある。
収穫直前にホタテの貝殻に付着した小さな貝などを取り除き、身ぎれいにしてネットの中に入れて、再び海中で育てるといった、更なる努力をしたものが、極上品として販売される。

「あれは、オオノの牡蠣の『チャンピオン』ですね!(笑)」

牡蠣が好きな大畑大介さんも、
一口食べて唸った。
「これはうまい!おいしい!
牡蠣の味が濃厚で、まるまると太った牡蠣ですね!」


オオノの職人たちは、
「ぶちうまい」牡蠣を消費者に届けるために、
様々な工夫を積み重ねている。
 
 
 

〈取材・記事〉 榛葉 健
毎日放送「産直ダイスケ」のプロデューサーでドキュメンタリー制作者。
阪神・淡路大震災では特別番組を
15本制作し、その1作「with若き女性美術作家の生涯」は、日本賞・ユニセフ賞、アジアテレビ賞など受賞。世界最高峰チョモランマに3度撮影に行き2年間極限の自然を撮影した「幻想チョモランマ」は海外でも放送された。
テレビやラジオの制作をしながら、東日本大震災の被災地に通い続けて、私費で映画「うたごころ」シリーズを制作。国内外で上映の輪が広がる。福島の原発事故で被害を受けた畜産農家の苦闘を5年間記録した新作「被ばく牛と生きる」は、ドイツやアメリカの映画祭で受賞し、国内でも平和・協同ジャーナリズム賞や農業ジャーナリスト賞を受賞。
2017年に立ち上げた「産直ダイスケ」では、日本各地で農業・漁業に奮闘する人々の情熱を取材し、絶品の生鮮品を紹介している。